主な助動詞の種類と意味と接続と用例1、過去助動詞「き」 自分の経験や過去への回想 前は連用形やうやう夜も明けゆくに、見れば率てこし女もなし 過去助動詞き/連体形2、過去助動詞「けり」 伝聞の過去、過去への詠嘆 前は連用形飼ひける犬の、暗けれど主を知りて飛びつきたりけるとぞ過去助動詞けり/連体形3、完了助動詞「つ」 「~た」「~てしまった」 前は意志動詞の連用形多くの人殺してける心ぞかし 完了助動詞つ/連用形強意助動詞「つ」 「きっと~」 後は「む」「らむ」「けむ」「べし」など推量を表す助動詞 所なく並みゐつる人も、いづかたへかゆきつらん、 強意助動詞つ/終止形4、完了助動詞「ぬ」 「~た」「~てしまった」 前は無意志動詞の連用形法師にやなりなまし 完了助動詞ぬ/未然形強意助動詞「ぬ」 「きっと~」 後は「む」「らむ」「けむ」「べし」など推量を表す助動詞「潮満ちぬ風吹きぬべし」と騒げば、船に乗りなむとす 強意助動詞ぬ/未然形5、完了助動詞「たり」 「~た」「~てしまった」 前は連用形そのたび、公卿の家十六焼けたり完了助動詞たり/終止形存続助動詞「たり」 「~ている」と訳す場合 朝に死に、夕に生まるるならひ、ただ水の泡にぞ似たりける。
存続助動詞たり/連用形6、完了助動詞「り」 「~た」「~てしまった」 前は已然形大きなる辻風起こりて、六条わたりまで吹けること侍りき完了助動詞り/連体形存続助動詞「り」 「~ている」と訳す場合牛飼・下部などの見知れるもあり 存続助動詞り/連体形7、打消助動詞「ず」防がんとするに力もなく足も立たず打消助動詞ず/終止形8、打消推量助動詞「じ」 三人称主語 「~ないだろう」 前は未然形さてはもののあはれは知り給はじ 打消推量助動詞じ/終止形打消意志助動詞「じ」 一人称主語 「ぜったい~しないつもり」勝たんと打つべからず負けじと打つべきなり打消意志助動詞じ/終止形不適当助動詞「じ」 「~べきではない」9、打消意志助動詞「まじ」 一人称主語「~ないつもりだ」 前は終止形そしるとも苦しまじ誉むとも聞き入れじ打消意志助動詞まじ/終止形不適当助動詞「まじ」 二人称主語「~べきではない」打消推量助動詞「まじ」 三人称主語 「~ないだろう」唐のものは、薬の外はなくとも事欠くまじ 打消推量助動詞まじ/終止形不可能助動詞「まじ」 「~できそうもない」さらにえ行き着くまじき心地なんする。
不可能助動詞まじ/連体形禁止助動詞「まじ」 「~てはならない」「~てはいけない」妻といふものこそ、男の持つまじきものなれ禁止助動詞まじ/連体形打消当然助動詞「まじ」 「~ないことになる」「~ないはずだ」参り来て見出し立てんとするを、寄せ給ふまじかなれば、いかがすべからん打消当然助動詞まじ/連体形10、希望助動詞「たし」 「~たい」「~してほしい」 前は連用形花は折りたし 希望助動詞たし/終止形11、希望助動詞「まほし」 「~たい」「~してほしい」 前は未然形いかなる人なりけん、たづね聞かまほし希望助動詞まほし/終止形12、比況助動詞「ごとし」 喩える場合 「~のようだ」 前は体言、体言+の、体言+が、連体形、連体形+の、連体形+があをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり比況助動詞ごとし/連用形例示助動詞「ごとし」 体言は固有名詞の場合楊貴妃ごときはあまり時めきすぎて悲しきことあり例示助動詞ごとし/連体形13、過去推量助動詞「けむ」「けん」 「~たろう」 前は連用形右大臣の御年、五十七、八にやおはしましけむ 過去推量助動詞けむ/連体形過去の原因推量助動詞「けむ」「けん」 「どうして~たろう」 疑問辞がある場合神風の伊勢の国にもあらましを何しか来けむ君もあらなくに。
過去婉曲助動詞「けむ」「けん」 連用形+けむ+体言 訳出しない其の後、行きけむ方を人知らずして止みにけり過去推量助動詞けむ/連体形14、現在推量助動詞「らむ」「らん」 「~ているだろう」 前は終止形(ラ変型は連体形)日頃は音にも聞きつらむ今は目にも見たまへ現在推量助動詞らむ/終止形現在の原因推量助動詞「らむ」「らん」 「どうして~だろう」 疑問辞がある場合われら、いかなる罪を犯してかく悲しき目を見るらむ 現在原因推量助動詞らむ/連体形現在婉曲助動詞「らむ」「らん」 終止形+らむ+体言 ~ような~蓬莱といふらむ山に逢ふやと、波を漕ぎ漂ひ歩きて、 現在婉曲助動詞らむ/連体形15、意志助動詞「む」「むず」(鎌倉時代以降は「ん」「んず」) 一人称主語 「~しようとする」「~するつもりだ」 前は未然形我は討ち死にせんと思ふなりもし人手にかからば自害をせんずれば、 意志助動詞むず/已然形勧誘・適当助動詞「む」「むず」 二人称主語 「~しよう」「~ほうがいい」 「はや、御馬にて二条院へおはしまさん人さわがしくなり侍らぬ程に」とて、右近をそへて乗すれば、 勧誘助動詞む/終止形推量助動詞「む」「むず」 三人称主語 「~だろう」雨降らむ。
推量助動詞む/終止形婉曲助動詞「む」「むず」 未然形+む+体言 「~ような」ひとり歩かん身は心すべきこそと思ひけるころしも、 婉曲助動詞む/連体形仮定助動詞「む」「むず」 「もし・・・たら」「もし・・・なら」馬など迎へおこせたらんに、桃尻にて落ちなんは、心憂かるべし仮定助動詞む/連体形16、意志助動詞「べし」 一人称主語 「必ず~しよう」 前は終止形(ラ変型は連体形)毎度、ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ 意志助動詞べし/終止形適当・勧誘・命令助動詞「べし」 二人称主語 「~べきだ」「~ほうがいい」「~なさい」推量助動詞「べし」 三人称主語 「~だろう」女は髪のめでたからんこそ、人の目立つべかめれ 推量助動詞べし/連体形可能助動詞「べし」 「~ことができる」殊に人多く立ちこみて、分け入りぬべきやうもなし 可能助動詞べし/連体形当然助動詞「べし」 「~べきだ」「~ことになる」住む館より出でて、船に乗るべきところへ渡る 当然助動詞べし/連体形義務助動詞「べし」 「~なければならない」恐れのなかに恐れべかりけるは、ただ地震なりけりとこそ覚えしか。
義務助動詞べし/連用形17、半実仮想助動詞「まし」 未然形+「ば」がある場合世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし 反実仮想助動詞まし/終止形意志助動詞「まし」 単独の使用の場合 躊躇を含めている意志なほ、これより深き山を求めてや、跡絶えなまし意志助動詞まし/連体形18、推量助動詞「らし」 前は終止形(ラ変型は連体形) 根拠の有る推量春過ぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山推定助動詞らし/終止形19、推量助動詞「めり」 「~ようにみえる」 前は終止形(ラ変型は連体形「る」はよく脱落) 視覚による推量契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋も往ぬめり推量助動詞めり/終止形婉曲助動詞 「~ようだ」京極の屋の南向に今も二本侍るめり婉曲助動詞めり/終止形20、伝聞助動詞「なり」 前は終止形(ラ変型は連体形「る」はよく脱落)また聞けば、侍従の大納言の御女亡くなり給ひぬなり 伝聞助動詞なり/終止形21、断定助動詞「なり」 前は体言・連体形(「る」はよく脱落)、稀に助詞「と」「ば」後は「あり」「侍り」「で」と訳す子になり給ふべき人なめり断定助動詞なり/連体形22、存在助動詞「なる」 場所+なる+体言 「~にある~」小諸なる古城のほとり雲白く遊子悲しむ。
存在助動詞なり/連体形23、断定助動詞「たり」 「~だ」 前は体言、連体形忠盛朝臣いまだ備前守たりし時、鳥羽院の御願得長寿院を造進して断定助動詞たり/連用形24、自発助動詞「る」「らる」 「思ふ」「見る」「聞く」「知る」「泣く」等知覚や心の動きを表す動詞の後「る」は四段、ナ変、ナ変動詞の後「らる」はそれ以外の動詞の後 「自然と~れる」「~せずにはいられない」 前は未然形今日は都のみぞ思ひやらるる自発助動詞る/連体形住みなれしふるさと、限りなく思ひいでらる自発助動詞らる/終止形可能助動詞「る」「らる」 後は打消・打消推量・打消意志など否定文の場合(平安時代)鎌倉時代以後、肯定文でも使用 「~ことができる」家の造りやうは夏をむねとすべし冬はいかなる所にも住まる 可能助動詞る/終止形恐ろしくて寝も寝られず可能助動詞らる/未然形尊敬助動詞「る」「らる」 主語は身分が高い人、または敬語動詞がある場合さる者ありとは鎌倉殿までも知ろしめされたるらんぞ尊敬助動詞る/連用形木曾殿は信濃より巴・山吹とて二人の美女を具せられたり尊敬助動詞らる/連用形 受身助動詞「る」「らる」 物に襲はるる心地して驚きたまへれぱ、火も消えにけり。
受身助動詞る/連体形ありがたきもの舅にほめらるる婿受身助動詞らる/連体形25、使役助動詞「しむ」(奈良時代と漢文)「す」「さす」(平安時代、和文) 単独使用の場合 「~せる」「~させる」 前は未然形仏師らを供養してわが像を作らしめたり使役助動詞しむ/連用形妻の嫗に預けて養はす使役助動詞す/終止形この子いと大きになりぬれば、名を三室戸斎部の秋田を呼びてつけさす使役助動詞さす/終止形尊敬助動詞「しむ」「す」「さす」 尊敬動詞がある場合公も行幸せしめたまふ尊敬助動詞しむ/連用形はやおはしまして、夜更けぬさきに帰らせおはしませ尊敬助動詞す/連用形この事を帝聞こしめして、竹取が家に御使遣はさせたまふ尊敬助動詞さす/連用形。